事業の成長を後押しするために、社員の成長や強い組織づくりへの取り組みはかかせません。しかし、「思ったように人が成長しない」「信頼していた人材が突然退職してしまった」など、一筋縄ではいかないのも組織づくりです。人が育ち、組織が強くなるための原理原則とは何なのか。
世界でも数少ない「ハイパーグロースカンパニー」である元ガリバーインターナショナル(現IDOM)で専務取締役を務め、退任後の現在は25社以上の企業の役員、戦略顧問、出資支援を行う吉田行宏さんに、会社や事業の成長に必要な要素や、その中で組織力が果たす役割について伺いました。
株式会社アイランドクレア 代表取締役社長
元株式会社ガリバーインターナショナル(現・株式会社IDOM)専務取締役。創業4年でガリバーを全国展開させ同社を株式公開に導く。10年で1000億円の売り上げを達成した日本でも数少ないハイパーグロースカンパニーとなった同社で、FC事業、経営戦略・マーケティング・人事・教育・IT・財務等の担当役員を歴任。2012年に退任するまでの18年間、一貫して人事・評価制度の構築、運営及び社員・幹部育成、教育を行い、独自の研修や育成理論を構築する。 ガリバー退任後は、若手経営者の育成支援と、共同での新規事業創造のため、株式会社アイランドクレアを設立。現在25社以上の企業の役員、戦略顧問、出資支援を行っている。著書に『成長マインドセット』『全員経営者マインドセット』がある。
会社の成長に必要な4要素とは?戦略と両輪をなしている、「組織力・人材力」
――これまで、元ガリバーインターナショナルだけでなく、マネーフォワードやFiNC、NewsPicksといった、名だたる企業からスタートアップベンチャーまで、幅広い企業の支援をされていらっしゃる吉田さんが提唱される、「会社の成長に不可欠な4要素」について教えてください。
吉田 :あくまで私の定義ではありますが、ガリバー時代や現在多くの企業を支援している経験から、成長の原理原則と感じている要素が、「ミッション・ビジョン・中期目標」、「戦略力」、「組織力・人材力」、「市場創造・イノベーション」 の4つです。
簡単に説明すると、「ミッション・ビジョン・中期目標」は会社の存在意義である「ミッション」、そのミッションを実現するために中長期的に目指すべき「ビジョン」、そしてそれらのマイルストーンとしての「中期目標」です。
この3つがそろうことで組織のゴールや方向性を示すことができ、組織が正しく進むことができます。また、「戦略力」は顧客により良い価値を提供し、他社でなく自社を選んでもらう市場競争に勝つための策略です。
しかし、この戦略力はとても重要ですが、どれだけ素晴らしい戦略を立てても、実行できなければ意味がありません。
その実行力を左右するのが「組織力・人材力」です。「戦略力」と「組織力・人材力」は両輪でこそ最大の力を発揮します。この両輪が機能することで、「市場創造・イノベーション」が生み出され新しい市場を創造され、非連続の成長が実現すると思います。
実はみんな成長したがっている。組織全体の傾向をつかむと当時に、「ここからどうするか」を考え、「意思表示」することが大切。
――戦略を実行するために必要なのが「組織力・人材力」ということなんですね。一言で「組織力・人材力」をあげる、といっても色々な手段や手法があると思うのですが、どのようなことから取り組めばよいのでしょうか?
まずは自社の課題が何なのか明らかにする必要があります。その指針となるものとして、「MSにマトリクス」という概念図を提唱しています。これまでの私の経験から編み出したものですが、タテ軸にマインドセット、ヨコ軸にスキルを置いた、組織戦略を考える際の拠り所となる概念図です。
自社の組織や人材を俯瞰し、成長を促すことができ、組織戦略のさまざまな課題を整理し、継続的・本質的な打ち手を実行することが可能になります。
タテ軸のマインドセットとは、「当事者意識・覚悟」、「オーナーシップ」、「全体最適・ミッションフィット」、「バリュー体現」の体現度合いで、ヨコ軸のスキルとは、「戦略思考・コンセプチュアルスキル」、「組織マネジメントスキル」、「テクニカルスキル」の習得、実行度合いとしています。これらが高い人が多い組織ほど、組織力が高いと定義しています。
――この概念図にそって自社の組織力が整理できるのですね。具体的にはどのように使っていくのでしょうか。その中でのエピソードなどあれば合わせてお伺いしたいです。
具体的な方法として、私が支援している会社では、まずメンバー自身にMSマトリクス上での現在の自分の位置に名前を書いた付箋を貼ってもらいます。
みなさん最初は少し戸惑ったり、基準に関して尋ねてきたりするのですが、「大体でいいので感覚で貼ってください」と伝えて貼ってもらいます。実際のところ、本人の認識と周りの評価が大きくズレることはないですね。これらを見て、組織の全体的な傾向を掴み、課題設定を行っていきます。
また、個人の成長という観点では、自分の現在地を貼った後に、半年後や1年後に自分がなっていたいと思う位置も示してもらいます。そうするとみなさん必ず右上に貼ります。
誰も強制してないのですがみなさん、「成長したい」と表明するんです。これがいいことだと思うんです。結局は、今、自分がどんな位置にあろうと、ここからどうするかを考えることが大事で、そこに向かっていくんだという意思表示になるのです。
このワークのエピソードの一つとしてマインドセット100%に貼りづらい問題があります。自分で100%だと思ったとしてもなかなかはっきりそう言いづらいことがあります。それは「自分はあの人よりは下なんじゃないか」とか、ついつい他と比較してしまいがちです。
もちろん相対評価にも意味はありますが、特にマインドセットの自己評価では「人の目や相対比較は気にしなくてよいので、自分がそう思うならば100%に貼ってください」と伝えます。そこで、思い切って貼れた人のほうが確実に成長していますね。
“何かができたら”、“何かを達成したら”、100%に貼りますという人は、その時点ではあくまで条件付きで、そこまで覚悟までは決まっていないのでその後の成長スピードも遅くなりがちです。
ですからそのレベルで迷っている人には、「自分は100%だと思ってしまったほうが、常に100%にふさわしい行動は何かと考えるようになるので、覚悟を決めて貼って損はないですよ」、と背中を押します(笑)。
人数が増えると「当事者意識が下がる」というあたりまえのことに、対処している会社は少ない。
――吉田さんが数多くの会社さんを支援している中で、共通して見られる傾向や課題などはありますか?
事業計画、事業目標、事業戦略を持っている会社は多くありますが、組織目標、組織戦略、組織計画を持っている会社は非常に少ないですね。また、従業員のマインドセットの重要性を認識できていない企業もとても多いです。
マインドセットの中でもとても大切なのが、「当事者意識・覚悟」なのですが、私が「当事者意識漸減(ぜんげん)の法則」と呼んでいるものがあります。
例えば1on1面談で相手が寝てしまった経験はありますか?普通はないですよね。あったとしたら相手が死ぬほど疲れていたか、まったくつまらない話を永遠としたか(笑)。でも大人数の講演や会議だと、寝ている人が必ずいますよね。飲み会などでも、2人の飲み会でドタキャンや遅刻ってあまりないですが、人数が増えると、ドタキャン・遅刻の嵐になったりします(笑)。
要するに、人数が増えれば増えるほど当事者意識が漸減するという、至極あたりまえの法則なのですが、組織が大きくなっているのに、これにきちんと対処できている会社は少ないです。
確率論で考える事業成長。組織・人材への工数投下は決してマイナスにはならないが、覚悟が必要。
――なるほど、そう聞くと納得するのですが、短期的で見えやすい売上・業績につながる事業戦略などと比べて、長期的で見えにくい組織力向上に本気でとりかかれる会社は多くないのでは・・と思ってしまうのですが、何かアドバイスはありますか?
やはり事業のことに忙しく、疎かになっている会社は多いですね。おっしゃるように、人はあらゆることで、短期的で結果が見えやすいことに注力してしまいがちです。
組織・人材力を肉体トレーニングや健康管理に例えるとわかりやすいかもしれません。忙しいからと、食べ物にまったく無頓着だったり、運動をほとんどしない状態を考えてみてください。短期間であれば、大きな問題がでることはありません。
また、1日だけ運動したり、1食だけ体によいものを食べても健康に大きな変化はないでしょう。しかし、これが半年、1年、3年とこの2つの状態が継続したら、その差が大きくなるのは想像に難くはないですね。
私が支援している会社でも、忙しい中でも組織や人材になんとか工夫や努力をして、トレーニングの時間を捻出して実行しているところは、少しずつではありますが、確実に組織がよくなっていますし、人材も成長しています。
人生でもビジネスでも、未来は不確実であり、絶対成功する方法を選択することできません。あくまで成功の確率を上げることが戦略です。たばこを吸ったり不養生なことをし続けても結果的に長生きする人がいるように、組織や人材に力を注ぐことなく成長する会社もあるかもしれません。
しかし、不健康なことをたくさんやって、健康に生きようとするより、健康的な運動や食生活を工夫したほうが健康な人生を生きる確率は高まります。組織や人材もそれと同じで、組織戦略は、すぐ結果がでないからと諦めずに継続すべき重要なものであり、その継続は強い覚悟が必要です。
ただしこれは組織戦略だけに極端に意識や工数を割くということではありません。少ない工数やちょっとした工夫、たとえばエスカレーターは使わず階段を使うことで結構運動できるのと同じように、組織力を上げるためにできることは、意外に多いと思います。
日々行われている会議や面談、朝礼や日報など、そのやり方や発信するメッセージ、コミュニケーションの質でも、継続することで大きく変化は現れます。よく私がお話している「当事者意識100%をまず自分からはじめる」ことも、その最たる例です。
自分たちの組織や人材の状態を正しく認識した上で、目指すべき組織・人材目標、戦略を明確に設定し、皆が強い意志・覚悟で行動してほしいですね。そうすれば、少し時間がかかっても必ず、事業戦略を推進し、イノベーションを起こせる、強い健康的な組織・人材を手に入れることができます。
(取材・構成・文:大島亜衣里、撮影:古林洋平)
吉田さんの他インタビューはこちら
10年で売上1000億円。 日本唯一のハイパーグロースカンパニーIDOMの「組織力」とは?
成長マインドセット 心のブレーキの外し方
単行本(ソフトカバー) – 2018/4/13
吉田 行宏 (著)
www.amazon.co.jp/dp/4295401862
全員経営者マインドセット――MSマトリクスで実現する次世代組織
単行本(ソフトカバー) – 2019/4/12
吉田 行宏 (著)
www.amazon.co.jp/dp/4295402907
新しいパフォーマンスマネジメントのためのツールを紹介
【サービス詳細はこちら】:HITO-Linkパフォーマンスについて詳しく見る
「HITO-Linkパフォーマンス」はOKR進捗管理のほか、人材データベース、目標評価シートなど、さまざまな機能が搭載されたパフォーマンスマネジメントシステムです。
OKRや1on1ミーティングに活用できる機能は、ぜひこちらからご覧ください!
< https://hito-link.jp/performance/ >