左から経営企画部デジタル・カイゼン・デザイン室 金 智之氏、野添 貴之氏、パーソル総合研究所 迎 美鈴、山嵜 康智 、田崎 文教
2019年7月に創立20周年という節目を迎えたNTTコミュニケーションズ株式会社では、20周年を迎えるに先立ち、2018年12月に企業変革プロジェクト“REBORN”を始動させました。
社員2人の有志から始まったこのプロジェクトは、経営も巻き込んだ全社プロジェクトとなり、96人の有志が参加するプロジェクトへと成長し、NTTコミュニケーションズは2019年5月に新たな企業理念と信条を策定しました。
発起人の同社経営企画部デジタル・カイゼン・デザイン室(以下、DKD室) 野添 貴之氏、金 智之氏にプロジェクト立ち上げの経緯とその想い、「企業理念」「信条」策定までの道のりと策定後の浸透と具体化に向けた活動についてお話を伺いました。
聞き手は、理念の社内浸透と具体化に向けた活動の支援をご一緒させていただいている、パーソル総合研究所の迎 美鈴と田崎 文教が務めます。
課題はブランディングではなく、会社のミッション が曖昧なこと
田崎:“REBORN”プロジェクトの立ち上げから策定に至るまでを時系列でお伺いしたいと思います。まず、このプロジェクトが生まれたきっかけはなんだったのでしょうか。
野添:2016年の経営企画部の忘年会で金との立ち話で盛り上がったのがスタートです。私は当時経営企画部の広報室で、コーポレート・ブランディングを担当していました。その一環で、テンプレートのデザインの統一などを担当していたのですが、同じ経営企画のDKD室の金から話しかけられて、丁寧な言葉で「デザインイケてないですよね」と初対面で言われまして(笑)
ただ、当時は、デザインよりもそもそものメッセージづくりに課題を感じていました。NTT Comならではのメッセージや、他社にない強みとかが、次第に弱くなってきていて、ブランディングに苦しさを感じ始めていました。
金:私のチームでも、その半年前くらいに『顧客志向経営』という方針を打ち出して、より創造的な組織、デザインを活用した経営を全社として推し進める施策をまとめていました。元々の課題感として、UIのデザインがバラバラだと感じていたのですが、野添と同じで、デザインだけの話ではなく、サービス群やその上位の戦略、さらに上位の会社のミッションが曖昧なことが課題であると感じ、それを創りたいと思っていました。社内でヒアリングをして仲間を探していくうちに、「広報の野添さんという人が同じ課題を持っているらしい」という話を聞いて、忘年会で話しかけたんです。
田崎:なるほど。それぞれ近い課題感や想いを持っていて、忘年会で出会ったのですね。
金:経営者が変わるごとに事業ビジョンは明示されていましたが、あくまで事業戦略よりのもので、拠り所と感じられるようなものがありませんでした。私自身もこの会社って何のためにあるんだろうと思っていました。
田崎:より普遍性の高いものが必要だったと。
金:そこで、当初、会社としてのブランディングが必要と考え、その実行に向けて動いていたのですが、「ブランディング」って言葉として、人により理解度が大きく違い、誤解を招きやすくて推進しづらく、このままだと、様々な誤解が残ったまま、表面上のイメージの話だけになってしまうと感じていました。
野添:私も同じですね。ブランディングは、ともすればお化粧になりがちなので、そもそも曖昧になってきた会社の存在意義や不変的に目指す方向性から掘り下げるべきではないかと考えていました。
8名の有志でまとめた趣意書から全社の巻き込みへ
田崎:そのお二人の考えが一致し、 REBORNへ繋がっていったということですね。実際に動き出して、有志8名での趣意書の起案まではどのように展開していったのでしょうか。
野添:2018年に、DKDや戦略部門、HR部から計8名の体制に拡大されました。ただ、当初は、会社の将来的な方向性についての議論はしていましたが、活動のゴールがメンバー間で定まっていない面もありました。
金:こういう議論と並行して、戦略部門の部門長も集めて、会社の方向性に関する議論も続けて行っていて、その中で、会社として新しいビジョンを打ち出したいという話が出てきました。そこから、2018年2~3月ころには、10年後を目指して今何を提供しないといけないか、なりたい姿、会社の本質的な価値について、部長レベルが集まり「うちの会社って何の会社?」という、今後につながっていく議論も生まれました。
野添:また、会社の存在意義の曖昧化といった仮説を持ったうえで、いまの課題感をファクトベースで社員から収集し、しっかり見える化するステップが重要と考えました。人選は、HR部の手も借りて社長から若手までの30名に1人2時間のインタビューを行いました。すると、我々が考えていた以上に根深い課題が噴出しました。それらを有志8人で整理したものを土台に、企業変革の必要性と方向感を文章としてまとめていったのが趣意書です。
金:30人のコメントをすべて分解、分類、整理をして、自分たちが感じていた課題はズレていなかったと確信を持ちました。それを解決するには、やはりミッションを作るしかないという結論になりました。
野添:実際は、有志8人の合意形成も大変でした。ミッションなんてなくても仕事はできている、成果も出ているという意見もありました。たしかに、素晴らしいミッションがあっても企業が成長できるとは限りません。一方で、成長し続ける企業の共通項として、それを実現する企業文化があるというのが検討する中で見えてきました。ミッションづくりはあくまで手段と位置付け、そうした企業文化の醸成を最終ゴールに据えたのです。
田崎:最後は、ミッションではなく、「企業理念」と「信条」という表現にまとめていますが、何か理由があったのでしょうか。
野添:英語のミッションとビジョンという単語だと、人により解釈が似かよるなど捉え方がブレやすいことがわかりました。そこで、解釈のブレが出にくい日本語の「企業理念」と「信条」という言葉にたどり着き、さらにそれぞれが意味する中身も有志で定義しました。
「企業理念」 何のために事業をしているか
「信条」 その実現のために大切にしている価値観
想いをもった有志96名が加わり、「企業理念」と「信条」を策定
田崎:それから、どのように96人のプロジェクトにまで広がっていったのでしょうか。
野添:当時は8名でこのまままとめていくという考え方もありました。一方、自分たちは現場のことをどこまでわかっているのか、このまま言葉にまとめて現場から共感を得られるのだろうか、という不安もありました。「想いがある人全員で創るべきではないか」という社内からのアドバイスもあり、何人集まるかわからないけど、広く参画者を公募してやってみようとなりました。
金:当時はどきどきですよね。多くて10人くらいかと思っていましたが、結果100名近くきてしまい、これはえらいことだと。言葉をまとめていくプロセスは、少人数でやらなければいけないと様々な人から聞いていたので、大変なことになってしまったという感じでした。
野添:うれしい悲鳴でもありつつ、言葉を紡ぐには前例のない規模でした。8チームに分けてキャプテンをたてて、毎週約100名が集まるワークショップをやって、キャプテンミーティングも隔週でやって、何とか一体感を強めていったという感じです。最初は、意思疎通も難しく、会社対組合みたいな、96名が組合で事務局が会社といったような変な対立構造になってしまい、集まった96名からは事務局を信用していいのか、みたいなところから始まりました。
金:すでに会社公認のプロジェクトになっていたので、トップダウンのプロジェクトのような誤解を生んでしまったのだと思います。徐々にキャプテンを中心に飲み会なども交えながら打ち解けていきました。
田崎:「理念」「信条」で制定した言葉にまとめていく上では、どのようなポイントとプロセスがあったのでしょうか。
野添:他社の事例などをまずは一切無視したのがよかったと思っています。海外のプラットフォーマーなどを挙げて「あの会社 のようになるんだ」ではなく、とにかく自分たちの過去・現在・未来をベースにDNA、キーワードを掘り下げていくことにこだわりました。
こだわっただけに、数か月間は胃が痛くて眠れない夜もありましたが(笑)。結局3月中にまとめる予定が、5月下旬までかかりました。終盤は、4チームから最終案があがってきましたが、いずれの案も捨てがたい要素があり、結局全案分解して創り直すプロセスを経て、「企業理念」と「信条」が出来上がりました。
金:冒頭でご紹介した30人の社内インタビューで挙がった会社の課題感については、「7S」のフレームワークで整理していたのですが、今回できあがった企業理念と信条は、7Sのうちのひとつの要素、shared valueを決めたに過ぎません。
迎:そこで私たちがご支援させていただいている、浸透と具体化に向けた施策に繋がっていくということですね。
金:はい。あくまで「新たな企業文化を創っていく」がゴールなので、理念と信条は起点という位置づけです。
後編では、企業理念・信条の中長期的な浸透と具現化に向けた活動について伺っていきます。