昨今、多くの企業で従業員エンゲージメントを向上させるための取組みが進んでいます。
企業と従業員がともに成長するために非常に重要な考え方ですが、従業員エンゲージメントとはどのようなものなのでしょうか。概要や取組みのポイント、事例をご紹介します。
従業員エンゲージメントとは
「エンゲージメント」という言葉は、ブランドや企業への愛着や絆、思い入れを表す言葉です。「顧客エンゲージメント」というと、お客様がどれだけ自社製品やブランドに愛着を持ってくれているかを測る指標として活用されます。
一方「従業員エンゲージメント」は、従業員が現在働いている会社に対して、どれだけ信頼しているか、どれだけ貢献したいと考えているかという愛着を表す概念です。
これまで日本では、終身雇用という仕組みが一般的でした。そのため、働いていく中で従業員エンゲージメントが自然と高まっていくことが期待できました。
しかし、終身雇用が崩壊した現在では転職することも一般的になってきています。優秀な社員が好待遇で引き抜かれる、より良い待遇を求めて転職していくということが日常的に発生しています。
さらに、労働人口の減少により採用環境はさらに厳しくなっています。
「人が出ていきやすく、人を採用しづらい」環境が加速している中で、金銭的な側面だけではない企業と従業員との関係性づくり=従業員エンゲージメントの向上が重要視されているのです。
従業員エンゲージメントが向上するメリット
従業員エンゲージメントは、現在の日本の就業環境において非常に重要な考え方です。従業員エンゲージを向上させることには、様々なメリットがあると言われています。
従業員のモチベーションを高める
従業員エンゲージメントが高まるということは、自分が現在働いている企業に対しての愛着や信頼が高まるということです。従業員は、企業が進むべき方向に信頼を寄せ、自分自身の仕事に誇りを持てるようになります。
自分の仕事が価値のあるものだと感じることで、仕事へのモチベーションが高くなっていきます。与えられた業務をこなすのではなく、自発的に仕事を見出し、積極的に取組んでいく効果が期待できます。
心理的な価値が上がり、離職率が低下する
従業員エンゲージメントを高めることは、従業員の離職を防ぐことにもつながります。
給与やボーナスなどの金銭的価値は、どこの企業でも与えることが可能です。そのため、金銭的価値しか感じられない状態では、従業員はすぐに、より好条件の企業へと移っていってしまいます。
しかし、仕事のやりがいや働きやすさ、愛社精神、誇りといった心理的価値は、その企業独自の魅力です。企業への愛着を感じることは、そこで働き続けたいという強い気持ちへとつながります。
また、心理的価値は簡単に真似することはできないため、企業としての競争力を高めるうえでも有効です。
同僚への信頼感が高まり、協力して会社に貢献するようになる
従業員エンゲージメントの高い組織では、一緒に働く同僚たちへの信頼感も高い傾向にあります。企業が目指すべき姿に向かって協力して進んでいくべき大切な仲間だと感じられます。
自分のことだけを考えるのではなく、助け合って仕事へと取り組む雰囲気が醸成されるため、会社全体の成果という高い視点から物事をとらえて会社へ貢献できる従業員が育つことが期待できるでしょう。
困難な課題でも積極的にチャレンジできるようになる
会社の進むべき方向やビジネスについて信頼や愛着を抱くことで、困難な課題や問題に直面しても、それを乗り越えていこうとする力を手に入れることができます。
人から言われた目標や命令された仕事では、問題が起きた時にすぐに諦めてしまいがちです。自分がやるべき、頑張るべき意義が見いだせない状態だからです。
しかし、自分の努力が会社や社会への貢献につながるという意識を持っていることで絶対に成し遂げようという力に変わり、チャレンジ精神を発揮しやすくなります。また、自ら問題を見つけその解決のための取組みを進めていけるようになっていきます。
このように従業員エンゲージメントが向上することで、会社全体のパフォーマンスの向上にもなるのです。
従業員エンゲージメントを向上させるためのコツ
従業員エンゲージメントを向上させるためには、どのような取組みが必要なのでしょうか。従業員エンゲージメントを高めるために重要な、4つのコツについて解説をしていきます。
会社のビジョンや社会への価値を明確に語る
従業員エンゲージメントを高めるうえで、会社のビジョンや社会への提供価値は非常に大切な要素です。自分が取組んでいる仕事が社会にどのようなインパクトを与えているのか、どのような価値を提供できているのかが実感できるからです。
そのためには、会社の取組みを社外に向けて発信するだけでは不十分です。
社内に対しても、会社が目指すべき方向をしっかりと語り、伝えていく努力が必要です。
また、ビジョンについて実際に社員がどう感じているのか、共感できているのかなどを直接対話する機会を設けることも有効です。
社内のコミュニケーションを活性化させる
社内の同僚やチームメンバーなどと良好な関係を築くことも、従業員エンゲージメントを高めるうえで役に立ちます。
社内で人とのつながりが感じられなくなり、コミュニケーション不全が起きると、会社への愛着が低下してしまうので注意が必要です。
このチームのために頑張りたい、この人のために貢献したいと思えるような人間関係作りが求められます。
例えば部門横断的なプロジェクトを行ったり、ランチ交流会やイベントを主催したりするなど、社内のコミュニケーションが活性化するような仕組みを取り入れていきましょう。
適切な人事評価とフィードバックを行う
従業員エンゲージメントを高めていくためには、従業員に「会社はきちんと自分のことを認めてくれている」「自分を正当に評価してくれている」という意識を持ってもらうことも必要です。
人は誰かに必要とされていると感じることで、自分自身も貢献したいという気持ちを抱くことができます。
そのためには、会社としての人事評価の仕組みを整えることが非常に重要です。
現場のマネージャに任せきりにしていると、給与や具体的なフィードバックなどが不十分になってしまうこともあるので注意しましょう。
どのような指標で人事評価を行うのかを従業員にきちんと伝え、こまめに評価のフィードバックの機会を設けることが大切です。
また、最近は従業員エンゲージメントを高めるという意味でも、OKRや1on1という取り組みを導入している企業が増えています。
従業員エンゲージメントを定期的にサーベイする
従業員エンゲージメントは、一般的には目に見えづらく、分かりにくい概念です。従業員エンゲージメントを高めるための取組みを行っても、実際に高まったのか、どの施策が効果的だったのかを検証することが難しい傾向にあります。
そこで、定期的に従業員エンゲージメントをサーベイすることで、数値として現状をとらえ、改善へと取組んでいくことが大切です。サーベイを行うことで、従業員エンゲージメントという概念を可視化してとらえることができます。
また、定期的に行うことで、どの程度取組みが進んでいるのか、従業員の意識に変化が生まれているか、会社の状況を定点観測することができます。
従業員エンゲージメント向上に取り組んでいる企業事例
従業員エンゲージメントの向上を目指し、様々な企業がそれぞれ思考錯誤しながら取り組みをしています。
組織づくりベースでの取材やイベントで登壇いただいた事例をご紹介します。
超成長企業になったIDOMが行う組織力の秘訣
設立10年以内に売上高10億ドル(約1000億円)を達成する超成長企業=「ハイパーグロースカンパニー」。Googleをはじめとする世界数十社がハイパーグロースカンパニーとして知られていますが、その中で、日本でただ1社名を連ねているのが、自動車関連事業を手がけるIDOMさん(旧・ガリバーインターナショナル)です。
IDOMは「人はやる気次第でパフォーマンスは劇的に変わる」と考え、組織戦略を大変重要視していました。
従業員全員が「当事者意識」と「経営者視点」を持つことを目指し、従業員同士がお互いを刺激し合う風土づくり、それらを担保するための仕組み(制度や施策、ITの活用)の導入を積極的に行いました。
IDOMの社名の由来は「挑む」で、IDOMイズムと呼ばれる行動規範の中でも特に重要な『挑戦』を全社員が体現するため、全員が必ずほぼ全種目に本気で挑戦する内容の運動会を開催するなど独自の施策が印象的でした。
【IDOMさんのインタビューはこちら】:10年で売上1000億円。 日本唯一のハイパーグロースカンパニーIDOMの「組織力」とは?
フィードフォースの「社員をエンパワーメントする組織」づくり
「働く」を豊かにする。~B2B領域でイノベーションを起こし続ける~をミッションに掲げ、BtoB領域で企業の生産性を高めるサービスを提供しているフィードフォースさん。
1on1の導入、9ブロックによる評価制度、ノーレイティングの導入など、さまざまな取り組みのトライ&エラーの根底にあるのは、「社員をエンパワーメントする組織をつくりたい」という思いでした。
創業期から現在に至るまで、具体的にどのような組織づくりを手がけてきたのかをうかがいました。
従業員の内発的動機づけが大事だと考え、「自分が裁量を与えられていて、自分の意志でやっている」と従業員が感じることのできる環境を大切にし、積極的に1on1やOKRなどの取り組みを導入しています。
【フィードフォースさんのインタビューはこちら】:1on1、OKR、ノーレイティング…なぜ、フィードフォースは新しい施策に挑戦し続けられるのか?
ビジョン・ミッション・バリューを明確にしたラクスル
「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」をビジョンに掲げ、2009年に創業したラクスルさん。印刷シェアリングプラットフォームを軸に事業を拡大させ、2015年には物流事業にも進出。印刷・物流という伝統的な業界の中で、ITを武器にした新しい事業を創出し注目を浴び、2018年5月には東証マザーズに上場を果たしました。
勢いよく成長する一方でメンバーがその情報量や成長について来れなくなってしまい、一時は退職率が30%以上になってしまったそうです。
そこでビジョン・ミッション・バリューを再定義して浸透させるために、「ラクスルがやらないこと」を明確にすることに力を注ぎました。
それによって会社として従業員に提供できることが明確になり、従業員が会社に期待することとのギャップをなくすことが期待できるなど、とても勉強になるお話が盛りだくさんでした。
【ラクスルさんのインタビューはこちら】:退職率30%からの組織改革。ラクスルの成長を支えた人事制度・カルチャーづくりとは?
まとめ
従業員エンゲージメントとは、会社に対しての信頼や愛着を表す指標のことです。
従業員エンゲージメントを高めることで、従業員の士気を高め、高い能力の発揮が期待できます。また、金銭的報酬以外の関係性を築くことで、離職率が低下する効果もあると言われています。
労働人口が減少する中では、従業員エンゲージメントが企業の競争力につながってきています。まずは自社の従業員エンゲージメントの状況を把握し、向上させるための施策を検討してみてはいかがでしょうか。