サードプレイスとは、家庭でもなく職場でもない、一人の個人として寛ぐことができる第三の場所のことを言います。社員がサードプレイスを持つことで、会社にとってもさまざまなメリットがあるとされています。そこで本記事では、人材開発におけるサードプレイスのもたらす恩恵について解説していきます。
サードプレイスの基礎知識を解説
サードプレイスというのは、ファーストプレイスである自宅、セカンドプレイスである職場や学校とは異なる「第三の居場所」のことを指します。一人の個人として寛ぐことができる場所として、アメリカの社会学者レイ・オルデンバーグ氏によって提唱された考えです。
サードプレイスには以下のように8つの特徴があります。
中立領域
サードプレイスというのは、政治や法律、経済など社会のしがらみから開放された場所である必要があります。参加する人には、自由が与えられ、それぞれの個人が自発的に関与することができる場所です。義務感ではなく、自分の意志で気軽に参加できることが、サードプレイスの効能を高めます。
平等主義
サードプレイスでは、それぞれの参加者の肩書や地位は関係がありません。また、どんな人でもサードプレイスに参加することができる機会が、平等に与えられています。子どもから老人、学生から経営者まで、サードプレイス内では対等の関係です。
会話が主たる活動
サードプレイスでは、意義のあるディスカッションやプレゼンテーションは求められていません。そうではなく、楽しくくつろぐことができる会話がとても重要な活動になります。遊びゴコロを持って、ユーモアを交えた会話がサードプレイスにとって、意義のあるものです。
アクセスのしやすさと設備
サードプレイスは、すべての人に開かれた場所でなければなりません。そのため、誰でも日常的に来ることができる、アクセスの良い場所であることが求められます。また、設備も入ることを躊躇わせることがないよう、開放的で気軽に覗きやすい工夫をしておくことが大切です。
常連や会員の存在
サードプレイスには、その場所の雰囲気を形成する常連の存在が大切です。常連の人達によって、サードプレイスの魅力が醸成され、新しい人が惹きつけられます。そして、常に新しい会員を受け入れる柔軟性も持ち合わせている必要があります。
控えめな態度・姿勢
サードプレイスは様々なバックグラウンドの人を受け入れる、家庭的な雰囲気を持った場所である必要があります。他の人を排除したり、攻撃したりせず、常に相手を尊重する姿勢を持ちます。
機嫌がよい状態
サードプレイスには、悪意や緊張といった感情が持ち込まれてはいけません。負の感情ではなく、ポジティブで明るい会話を楽しむことによって、心地の良い空間が得られます。
第2の家
サードプレイスでは、一緒に過ごす人と精神的なつながりや温もりを感じるようになります。まるで、家族のような絆を築いていくことで、より楽しい時間や喜びを共有することができます。
いま、なぜ日本でサードプレイスが必要なのか
現在の日本では、メンタルヘルスが社会的な問題になっています。また、自殺や過労死などの問題もあります。これまでメンタルヘルスというと、職場環境や仕事環境に問題の焦点が当てられてきました。しかし、メンタルの問題は、会社だけではなく、個人的なつながりや居場所のなさ、孤独感などにも問題があることが分かってきています。家と職場だけという閉鎖的な環境では、ストレスの蓄積によって、更なるネガティブ思考へと進んでしまいやすくなります。
このような孤立した会社員、特に人とのつながりが希薄な都市に住む人にとって、家と職場以外の第三の居場所が必要とされています。第三のコミュニティに属することで、心身のリフレッシュや、自己肯定意識の向上が期待できます。
人材開発におけるサードプレイスのメリット
サードプレイスは、そこに参加する本人がメリットを受け取ることはもちろん、企業としても社員がサードプレイスへ参加することで様々なメリットを得ることができます。
新たな価値観や考え方を取り入れることができる
サードプレイスには、働く会社も地位も仕事内容も全く異なる様々な人が集まっています。会社と家だけの往復では、新しい考えを取り入れることができず、価値観が固まってしまいやすいです。しかし、サードプレイスがあることで、思考の柔軟性が高まります。
また、多様な人と交流することで新たなアイデアを生み出していく効果も期待できます。
精神的不安が解消される
サードプレイスは、緊張感や不安、焦りといった負の感情が必要のない場所です。仕事を離れ、一人の個人として安心して受け入れてもらうことができます。仕事上でプレッシャーがかかる場面が多い人ほど、気を抜くことができる場所の存在は非常に重要です。
サードプレイスでリラックスして過ごすことによって、自然と仕事にも前向きに取り組むことができるようになっていきます。
自ら学び行動する姿勢が育まれる
サードプレイスでは、誰にでも開かれた自由でくつろいだ空間が与えられます。誰かから指示を受けるということはありません。サードプレイスでの行動はすべて自分次第です。他の参加者と交流を図り、活動をともにしていく中で、自分で学び行動していこうという気持ちが醸成されていきます。
自主的な活動だからこそ、本当に楽しんでやりたいことを追求していく、行動力が生まれていきます。
一人の個人としての自己肯定感が高まる
仕事上での役割、家庭での役割というのは、ときに、人にとっては重圧となります。本来の自分ではなく、役割の仮面をかぶっているという意識も生まれやすいです。しかし、サードプレイスでは、あくまで一人の個人としてその場所に参加することができます。そして、チームリーダや課長、良き母や良き父ではなく、その人個人の人格が尊重され、肯定されます。
このことによって、自分はそのままでいいんだという自己肯定感が高まります。自分を肯定する意識が高まると、自然と会社や家庭での自分の存在意義も高めていくことができるようになります。自分はできるという意識を持つことは、仕事のパフォーマンスの向上に非常に役立つことが期待できます。
主体性が高まる
サードプレイスへの参加は、自主的なものです。自分でどのコミュニティに参加するか決めることができます。そして、その中でどのような活動をするのか、どのくらいの頻度で出向くのかということも、すべて自分の頭で考え決定を行っていきます。
会社のように指示を待っていては、サードプレイスでは何も活動をすることはできません。自らの意思にしたがって動いていくことによって、自然と主体性が高まっていきます。そして、自分から動くという意識を身につけることができれば、職場でも主体性を発揮していくことができるようになります。
まとめ
サードプレイスとは、自宅や職場とは異なる、一個人として自らを開放することができる第三の居場所のことです。職場と家の往復だけでは、心身の疲労が蓄積するばかりで、仕事のパフォーマンスは低下してしまう危険があります。また、メンタルヘルスの問題を抱えやすくなってしまいます。それぞれの人がサードプレイスを持つことによって、気持ちのリフレッシュができるだけではなく、主体性の向上や新たなアイデアの創出が期待できます。従業員がサードプレイスを見つけ、そこで活動することは、本人の心身の健康のためだけではなく、会社にとっても従業員の能力発揮のために非常に有効です。