ストレスコーピングとは、日常生活で受けるストレスを上手に対処して軽減させる手法をいいます。社員のメンタルヘルス不調を軽減することは、会社にとっても重要な課題です。そこで当記事では、ストレスコーピングの概要を説明したうえで、職場における4つのメンタルヘルスケアでどう活用できるかを紹介していきます。
ストレスコーピングとは何か
ストレスコーピング(stress coping)とは、リチャード・ラザルスが認知行動理論の中で提唱したストレス対処理論のことです。ストレスとは、ストレッサー(ストレスのもと)を心が感じ取ってネガティブな気分が生じ、その結果としてストレス反応が起こる現象をいいます。
例えば、上司のピリピリした雰囲気や表情から「嫌だな、居心地が悪いな」という気分が生じ、胃が痛くなるといった現象です。ストレスコーピングとは、こうしたストレスに上手に対処して、ストレス反応が起こらないようにする方法論です。
ストレスコーピングの手法は、問題焦点コーピングと情動焦点コーピングの2つに分けられます。
問題焦点コーピングとは
問題焦点コーピングとは、ストレッサーに働きかけてストレスを軽減するコーピング(対処法)のことです。問題焦点コーピングでは、自分の努力や周囲の協力を得てストレスの原因に対処することになります。
先ほどの例でいえば、周囲の協力を得て上司に態度を改めてもらうように働きかける、といった対処が問題焦点コーピングといえます。
情動焦点コーピングとは
一方、情動焦点コーピングとは、ストレッサーに働きかけるのではなく、自分自身の受け取り方、感じ方を変えてストレスを軽減する対処法です。情動焦点コーピングは、変えることができない事柄や問題焦点コーピングでは解決しようがないことに有効です。
例えば、ペットロスの時などはひどい喪失感を伴いますが、その事実を変えようがありません。そこで「長生きしてくれたな、一緒に過ごせて良かったな」と考えることができれば、有効なストレス対処になります。
情動焦点コーピングにつながる対処法
情動焦点コーピングには、次のような対処法も含まれます。
1. 認知的再評価型コーピング
最初の上司の例でいえば「いつものことだ、何のことはない」など、いわゆるポジティブ・シンキングで、前向きな受け止め方をすることです。
2. 社会的支援要請型コーピング
上司や同僚、友人、家族などに相談することで気分を軽くする対処法です。もしも相談したことによって原因そのものの解決につながれば、問題焦点コーピングともいえます。
3. 気晴らし型コーピング
レジャーやヨガ、運動や趣味など、いわゆるストレス解消やリラクゼーションによる対処法で、文字通り「気分転換」のことです。
認知行動療法とのかかわり
ストレッサーの受け止め方によって気分が左右されるという点から、ストレスコーピングと認知行動療法は深く関係しています。認知行動療法とは、物事の受け止め方、感じ方に心理学的にアプローチし改善する治療法です。
何がストレッサーになるかは人それぞれですが、強すぎるストレスや心が弱っている時は受け止め方も歪んでしまうことがあります。心身が疲れ、うつや気分障害など自分の力で考え方や受け止め方を変えることが難しい状態になった時には、認知行動療法を必要とする場合もあります。
職場におけるストレスコーピング活用の場面
ストレスコーピングを職場で活用するには、職場におけるストレスケアの基本段階をおさらいしておく必要があります。職場におけるストレスケアは、「セルフケア」「ラインによるケア」「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」「事業場外資源によるケア」の4つがあります。
そこで、4つのケアの中でストレスコーピングを活用できる場面について解説します。
セルフケアとストレスコーピング
最も望ましいのは、社員それぞれがセルフケアの段階でストレスコーピングできる状態といえます。セルフケアとは自分自身の状態を把握して、社員自身でメンタルヘルス対策を行うことです。
そのためには、社員向けの講習会などでストレスコーピングの実践方法を教育するなど、知識の底上げを図ることが重要です。
ラインによるケアとストレスコーピング
当事者だけでなく、相談の受け手となる人事担当者や上司である管理職も正しく知識を身につけることが必要です。ラインケアとは、管理職や人事担当者が連携することで組織的に行うメンタルヘルスケアをいいます。
特に問題焦点コーピングにおいては、ラインによるケアのレベルで職場改善に取り組むことが重要となります。
事業場内産業保健スタッフ等によるケアとストレスコーピング
職場内のメンタルヘルス担当者や保健スタッフは、ストレッサーとその受け手の双方に働きかける必要があります。セルフケアができるよう、従業員や管理職へのストレスコーピングに関する情報提供を行うほか、管理職と連携して職場改善などを行うラインケアの場面では、問題焦点コーピングに取り組むことになります。
さらに、情動焦点(社会的支援要請型)コーピングでは、相談の聞き手としてストレス対処の役割を担うこともあります。ストレッサーと受け手のどちらにもバランスよく働きかけていくことが、職場のストレスコーピングには重要です。
事業場外資源によるケアとストレスコーピング
初期のストレスコーピングでは、事業外資源として気分転換の提供などが挙げられますが、すでにメンタルヘルス不調やその兆候がみられる時などは、医師の判断で認知行動療法まで行うことが効果的です。
また、産業医や心療内科医等から職場の環境改善のための助言を受けることも、問題焦点コーピングの実践に有効と言われています。
ストレスコーピングインベントリーの活用
事業外資源のひとつとして『ラザルス式ストレスコーピングインベントリー』という検査方法があります。これは、病気かどうかを診断するものではなく、本人の行動の傾向、習慣、くせなどを知るためのものです。
検査は64問、所要時間10分で行う簡単な内容です。最近体験した「強い緊張を感じた状況」とその対処の仕方について回答します。
また、30項目の中から“とても困った、つらいと感じていること”を3つほど回答してその結果を評価します。
自己チェックによって、ストレス対処行動の2つのストラテジーと8つの対処型のプロフィールを導き出すことができ、そこから本人の傾向などが分かります。
チェックから分かる2つのストラテジー
ストレスコーピングインベントリーによって導き出される2つのストテラジーで、本人がどのようなストレスコーピングの傾向を持っているかが分かります。
- 認知的ストラテジー:事件に対してチャレンジする傾向
- 情動的ストラテジー:事件からの情動軽減を図る傾向
つまり、認知的ストラテジーの場合は問題焦点コーピング、情動的ストラテジーの場合は情動焦点コーピングに向かう傾向があるということです。
チェックから分かる8つの対処型
次にストレスコーピングインベントリーから導き出される8つの対処型からは、本人の性格や考え方のクセの傾向を知ることができます。
- 計画性:熟慮する、慎重性、計画性がある
- 対決型:自己信頼感が強い、積極性、自信がある
- 社会的支援模索型:社会への適応、依頼心が強い
- 責任受容型:従順性、自己の役割を自覚、責任感が強い
- 自己コントロール型:自己の感情や行動を制御する、慎重型
- 逃避型:問題解決の意欲を失う、人のせいにする、やけになる
- 隔離型:問題と自己との隔離、問題を忘れる
- 肯定価値型:経験を重視、自己発見、自己啓発、自己改革の強さ
これらの傾向から、人それぞれの受け止め方に合ったストレスコーピングを実践していくことが、より有効な手段といえます。
まとめ
職場でストレスコーピングについて周知し、ケアの種類や段階によって取り組み方を検討することが重要です。一方で、社員の受け取り方や気分転換にばかり注目するのでは、旧来の精神論・根性論中心の職場と変わりがありません。問題焦点と情動焦点のどちらもバランス良く取り組むことが、ストレスコーピングの正しい実践といえます。