「メンター制度」とは、経験豊富な先輩社員が後輩社員の悩みを聞いて一緒に解決していく制度です。特に新入社員や若手社員の定着や人材育成などに効果があるとして導入する企業が増えています。そこで本記事では、メンター・メンティの意味と役割、企業から見たメンター制度の効果、導入ポイントについて説明します。
新入社員の離職状況とメンター制度の概要
まずは新入社員の離職率の現状とメンター制度の概要についてご説明します。
新入社員の離職状況
厚生労働省は、毎年「新規学卒者の事業所規模離職状況 」という調査を行っています。この結果によると、企業規模100~499人の中規模企業の場合、大学新卒者の離職率は、就職後1年で1割、3年すると約3割が離職しています。この結果は、平成8年から平成29年までほぼ変わることなく横ばいで推移しています。
また、新規学卒者が離職をする理由には「人間関係がよくなかった」「仕事が自分に合わない」など仕事のミスマッチや職場の問題点が挙げられます。新入社員や若手社員はこうした悩みを同じ部署の上司や先輩に相談しづらく、一人で抱え込んでしまう場合もあります。そして解決できないまま、離職へとつながっていきます。
このような現状を改善していく取り組みのひとつとして、「メンター制度」があります。メンター制度はじっくりと腰を据えて取り組む必要がありますが、新入社員の定着以外にも一定の効果が期待できます。
メンター・メンティの意味と役割
メンター制度の中心は、「メンター」と「メンティ」の関係構築です。メンターとメンティの意味と役割について説明します。
メンターとは、経験豊富な先輩社員のことです。一方のメンティは、メンターにフォローを受ける後輩社員を指します。メンターはメンティの良き見本となり、メンティが将来こうなりたいと思える理想像(ロールモデル)に近い人で、直属の上司以外の社員が適任です。
直属の上司や先輩は、仕事の指示を直接与える人たちです。その一方で、メンターはそのラインから外れて、もう少し自由な立場でメンティを支援し、相談に乗る立場でメンティと関わっていきます。定期的な面談でメンティの悩みを聞き、メンティ自身が自分で答えを見つけられるようにじっくりと悩みを聞くという姿勢が、メンターの重要な役割です。
メンター制度とは、組織目標を達成する上では直属の上司や先輩との関わりを大切にする一方で、それ以外の精神面も含めメンターが若手社員を側方支援する制度を指します。
メンター制度とロールモデルの位置づけ
メンター制度においては、もうひとつ重要な概念があります。それが、メンティが目指すべきロールモデルの確立です。ロールモデルとは、メンティが将来自分もこうなりたいと思える存在のことです。仕事の仕方や技術の熟練度だけではなく、仕事への取り組み方や生き方も参考になる人物でなくてはなりません。ロールモデルは、メンティの精神的支柱ともいえる存在です。
ロールモデルは一人でなくてもかまいません。技術的にはAさん、リーダーシップではBさん、ワークライフバランスではCさん、というように複数の人がロールモデルとなっても良いです。
メンター制度を導入する場合、ロールモデルになれる人材の発掘は欠かせません。新入社員のロールモデルとなれる人材には、メンターとして後進を指導する立場となれるような教育をしておくことが、メンター制度導入のために必要な準備です。
企業から見たメンター制度の効果
企業にとっては、メンター制度はどのような効果をもたらすのでしょうか。厚生労働省が行ったアンケートの結果に、メンター制度を導入して得られた効果についてまとめられたものがあるため参考にしながら解説します。
引用元:厚生労働省「女性社員の活躍を推進するためのメンター制度導入ロールモデル普及マニュアル」P.5
メンティの定着率の向上
アンケート調査によると、メンター制度の直接的な効果として「メンティの定着率の向上」に役立っていると答えた企業は47.5%と、半数近くが効果を感じています。
また、それ以外にもさまざまな良い効果が認められたという回答が出ています。特に、以下の3項目に関しては、メンティの定着率向上よりも多くの企業が「効果があった」と認めている項目です。
- メンティのモチベーション向上
- メンティの職場環境への適応
- メンティの知識・スキル獲得
他にも、メンティの視野拡大やメンティ個人のニーズに沿ったキャリア育成など、メンティが会社の一員として活躍できるような効果がメンター制度に期待できます。
メンター自身のモチベーション向上
メンター制度の効果は、メンティのみにとどまりません。最も高い割合で効果があると認められた項目は「メンター自身の人材育成意識の向上」です。
直接仕事を一緒にするわけではない後輩の悩みを聞きながら一緒に問題を解決していくうち、メンティ以外の直属の後輩に対する認識もより深くなります。そのため、メンターの後輩に対する関わり方が良い方向へ変わり、部門内にも良い影響がもたらされるのではないでしょうか。
また、メンターとメンティは別の部署で関わり合いを持つようになるため、部署や職種間の交流が活発になるという効果もあります。
メンター制度導入のポイント
ここまで、メンター制度の概要と効果について見てきました。ここからは、実際にメンター制度を導入する際のポイントを解説します。
メンターとメンティに対する事前の説明・研修会の実施
メンター制度は、新入社員が入ってきたらすぐに導入できるものではありません。事前に、メンターとメンティ双方へ制度の説明と研修会を実施します。制度の趣旨を理解することで、スムーズな制度の実施が可能となります。
特にメンターが初めてという社員に対しては、メンティへの接し方に慣れるためのロールプレイなどを実施するなどしておく必要があります。
全社挙げての周知と理解
メンター制度は直接業務に関わる仕事ではない、という意見を持つ社員は必ず出てきます。会社全体に対する制度の周知はもちろんですが、メンターに選ばれた社員の上司および周囲の理解を得るよう、メンターへの手厚いフォローが必要です。メンター制度に関する情報の周知と理解を徹底しましょう。
メンターとメンティのマッチングの十分な配慮
メンターとメンティのマッチングも重要な要素です。メンティのロールモデルにできる限り近いメンターが求められますので、メンティ側のロールモデルをじっくりヒアリングします。一方で、メンターのタイプもしっかり分析した上で、最適なマッチングができるようしっかり手間をかけるよう心がけます。
メンター制度に関する助成金が得られる
厚生労働省は、メンター制度に取り組む企業に対して助成金制度を設けて支援しています。いくつかの受給要件をクリアすることで、目標達成助成額57万円、生産性要件を満たした場合は72万円が支給される制度です。
詳細については、厚生労働省のHPに掲載されている情報を参照ください。
厚生労働省「職場定着支援助成金(雇用管理制度助成コース、介護福祉機器助成コース、保育労働者雇用管理制度助成コース、介護労働者雇用管理制度助成コース)」
まとめ
現状の新卒者離職状況について紹介した後、メンター制度の意味と役割、企業から見た効果と導入のポイントについて説明しました。ここまでの説明を簡単にまとめます。
- メンター制度とは、直属の部署以外でロールモデルとなり得る先輩社員(メンター)が後輩社員(メンティ)を側方支援する制度
- メンター制度の導入と運用には手間がかかるが、メンティだけでなくメンターにも良い影響を与え、十分な効果が見込める
- メンター制度を導入するには、全社員の理解を得られるような説明が重要
メンター制度は新卒者の離職を食い止めるために有効な方法の一つです。本記事を参考に、ぜひ自社への導入を検討してみてください。